アーティストのための金属加工機械ツアー / ご報告

アーティストのための金属加工機械ツアーは、じわりじわりとしか理解されない重要な動きなので、説明に少し困ります。丁寧に、少し面倒くさくてもいいので言葉を尽くして書いてみようと思います。


開催場所となったすみだ中小企業センターは行政が管理する施設です。HPには次のように業務が書かれています。「中小企業の経営・技術・取引の相談・指導、工作機械類・精密測定機器類の利用、施設の貸出指導・維持管理等に関すること」つまりあくまで事業支援の施設だ、というわけです。個人の趣味や余暇(DIYと言っていいのでしょうかね)での利用はできませんでした。動きがあったのは2014年の初めごろ。センターがアーティストを個人事業主として認めました。個人事業主とはいえ事業者です。アーティストが中小企業センターの金属加工機械を使えるようになりました。これは重要な転機。また一つ、公の概念が広がったと言えます。

認識が変わった明確な理由は聞いておりません。ただ、墨田区では20年前からギャラリーや美術館の外でのアーティストの活動(展示やワークショップなど)が行われていたこと。アーティストの拠点(ギャラリーやアトリエなど)が増えてきたこと。墨田区内で活動するアーティストと行政職員との間に接点が増えてきたこと。さらにその接点が仕事だけでなく生活の中にあるということ、が考えられるでしょう。

同時5軸マシニングセンタやワイヤ放電加工機、サーボプレスといった中小企業センターにある21種類の工作機械が使えるとなっても、どうやってアーティストにそのメリットを伝えたらいいかわからない。そもそもアーティストってどこにいるの。そこで私に声がかかりました。私は「墨東まち見世」アートプラットフォームの事務局メンバーかつ、鳩の街通り商店街イベントでアーティストに相談を持ちかけていたので、何か知ってそうだと思われたようです。(商店街でお世話になっている中小企業診断士の方がセンター職員だったためこのようなお声がけが来ました。)




私はまず見学が必要だろうと考え、このツアーを提案しました。2014年4月からアーティストのための金属加工機械ツアーを実施。すみだ中小企業センターの職員の方々とアーティストの間にたち、日程の調整などを行いました。ツアー内容は中小企業センターの職員の方が立案。(失礼な言い方かもしれませんが)想定を大幅に超える面白さでした。ただ機械を淡々と説明するのではありません。金属加工の基本をCAD/CAMの説明からスタート。金属加工の分類、加工技術の発展によって生じる環境の変化などなど。学校の授業を聞いているかのような充実した内容でした。案内をしてくださる技術職員の方が毎回楽しんでいるのが伝わります。笑いを交え、実際に加工機械を動かし、大きな音や激しい動きを実際に見せてくださいました。


ツアーは全8回、合計62名のアーティストやアート関係者が参加。facebookやメールでの告知のみでしたが、多くのアーティストにすみだ中小企業センターの紹介ができました。さらに実際の利用もしていただいております。その他、作品制作の相談にも数名のアーティストの方が訪れました。(中小企業センターでは工作機械の利用だけでなく、墨田区内の事業者紹介も行っています。何か作りたいもの、実現したい事業があれば、まず窓口に相談してください。適切な事業者を紹介してくれます。)

2015年はツアーの継続に加え、中小企業センターが実施している講座(CAD/CAMの使い方、工作機械に使い方、ゆるまないネジの締め方、等)のアーティスト向け紹介を検討しています。詳しく決まりましたら、各種SNSやブログでも告知していきます。

あくまでアーティスト向けのツアーなのでどなたでも参加できるというわけではありませんが。何とかしてこの面白さを伝えたいと思い書かせていただきました。


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写真アルバムはこちら
http://on.fb.me/1PhWU6x
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(補足)

「アーティスト」「地域」とくればアートプロジェクト、屋外での展示やイベント、空き物件を活用した展示やイベント、ワークショップが先に立つ環境で数年活動してきた中で、また違ったお互いのかかわり方は無いものかと思って中小企業センターのお手伝いをしています。

墨田区は大田区と並んで中小企業の多い地域です。中小企業のネットワークは複雑で緻密な独自のシステムで張り巡らされています。その地域の行政には当然のことながらネットワークの情報が集約されており、発信/受信のハブとしての機能を持ちます。そのハブにアーティストがアクセスすることで、アーティスト本人やギャラリー、アトリエの情報がネットワークに編みこまれます。

中小企業センターの職員は墨田区の中小企業を巡回します。そうして上記したネットワークを新鮮な状態に保ちます。新規事業を始めようとしている企業、人が足らない企業、アイデアが足らない企業、そのネットワークに加わるアーティストの存在。何かが確実に生まれると私は期待しています。


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