第1回アーティストのための工場見学 / ご報告

2015年から続けてきた「アーティストのための工作機械ツアー」は作品制作の場としての墨田区という空気を、少しずつではありますが作り出すことができました。2017年3月に開催場所であったすみだ中小企業センターは閉鎖。その機能の一部を墨田区役所の1階に移しています。アーティストからの作品制作相談も受け付けてくださる体制は整っているので、ツアーが作った空気は継続していると言ってよいでしょう。

当然のように空気はいつしか薄れていきます。つながりを生む機会は継続していかなければなりません。そこでツアーの際にご協力いただいた中小企業センターの内田さんに相談をもちかけ、「アーティストのための工場見学」という機会を持ち続けることにいたしました。



第一回目の工場見学先としてお願いしたのは、緩衝材の型抜き加工(プレス)を通じて幾通りもの解決策を提案するサトウ化成さんです。小ロット提案型のスタイルで幅広い業界のニーズに提案をし続けるサトウ化成さんは、この話を持ちかけた時からとても乗り気でいてくださいました。

緩衝材の種類をどれだけ思い出せるか試してみてください。私はウレタン…ゴム…くらいしか思いつきませんでした。実際は「ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ゴム、樹脂シート…」と多岐に渡ります。新しい素材の開発も業界では常に行われていて、打合せ時に見せていただいたのはゴムとウレタン(だったかな?)が合成された素材。機能はゴムで軽さや加工のしやすさはウレタンという便利なものでした。

緩衝材が必要な場面を想像してみます。身近なものはテレビやパソコンの箱の中の緩衝材でしょうか。そこから派生して考えると、医療や介護の現場に用いられる精密機械の保存や移動にも必要となりそうです。精密機械が求める正確さ、また正確さを維持するために必要な環境の独自性はおそらく想像している以上でしょう。製品単位はもちろんのこと、使われる現場それぞれで必要となる緩衝材の形や素材、加工された後の最終形態は違ってくるのではないでしょうか。

サトウ化成さんはこうしたひとつひとつの現場が求めるニーズに応える提案型の会社でした。



「アーティストのための工場見学」当日は3名のアーティストが参加。ツアーがスタートします。社長の佐藤さんによる会社説明の後、実際にプレス加工機やカッティングプロッターを動かしての加工現場見学をしていただきました。

型抜き用の刃がどれだけたくさんあるのか(棚にずらりと何百も並んでいました!)、刃の寿命の話、機械によってできる加工作業の幅広さ、サトウ化成がどのような現場に提案をしているか、など様々なお話をしていただきましたが全てに共通していることが明確に1つありました。それは「つくることができる」ということ。素材が柔らかく加工しやすいからかもしれません。とにかく作ってみる、形にしてみる、という考えが全ての前提にありました。

この前提を持った佐藤さんに対して、アーティストたちは質問をし続けます。そういえば中小企業センターのツアーでもたくさんの質問がうまれました。しかしより具体的に「こんな形のものは作れますか」といった質問はなかなか出なかったような気がします。工場が特定の製品を作っているからかもしれませんし、佐藤社長に対する質問だからかもしれません。後者でしょう。

ところで佐藤社長が2017年のスミファで行ったワークショップは、カッティングプロッターを使ってオリジナルの武器や変身用の杖(ミンキーモモ的な)を作るものでした。緩衝材を使った提案で狙う次なる業界がコスプレ業界だという彼の野心は本当に素晴らしい。確かに完成度の高いコスプレは、尖った髪の毛、常に風が吹いている前提のマントや、重厚感あふれる鎧など、再現性と機能性の天秤をどちらか一方に傾けさせなければならないものばかり。軽く加工しやすい緩衝材のニーズは確かにありそうです。



最後にアーティストから佐藤社長への作品プレゼンを行いました。冷凍生協のお二人からは自身が運営しているメディアについての説明。長谷川維雄さんからは地蔵コーンや金太郎飴絵画、一円玉で日本地図をつくるパフォーマンスやエキストラヴァージンピーマンエアーのお話をしていただきました。特にピーマンエアーでは労働がテーマになっていることに触れていただき「今はエアーを作った後のピーマンを食べる仕事をしてくれる人を探している」という話にまで盛り上がりました。

このアーティストから工場へのプレゼンは「アーティストのための工場見学」から行っている企画です。すみだ中小企業センターは事業者支援を目的とした公共の施設ということもあり、ツアーはセンターの事業の一環として捉えていただいておりました。しかし工場は公共の施設ではありません。私企業です。工場見学を通じてアーティストとの接点を持ちアーティストに製造の現場を紹介することは、厳密に言えば、事業の一環ではありません。事業時間内に工場見学という時間を設けていただく対価のようなものとして、やはりお互い(工場とアーティスト)が等しく何かを得る必要があります。とはいえアーティストに工場に対する製品の提案をお願いするなんてことは等しくない気がします。お互いに普段行っていることを見せるためにはどうしたらよいか。ということでアーティストの皆さんには過去作品をご紹介いただくことにしました。アーティストブックを持ってきていただいてそれを見せながら作品についてお話するのであれば、新しく何か準備することにはなりません。よね。



まだ始まったばかりの「アーティストのための工場見学」。工場ひとつひとつにお願いをしていること、町工場が会場となるため多くの人を呼ぶことができないことなどから、あまり派手なイベントにはなりません。西川◯よしさんの「小さなことからコ(ry」ではないですが、こうした小さいけれども密度の濃い機会の積み重ねが、冒頭に申し上げた「作品制作の場としての墨田区という空気」を持続させることにつながるはず。

2018年も継続して工場とアーティストをつなぐことを実践していきます。よろしくお願いいたします。

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第1回アーティストのための工場見学
【工場】
有限会社サトウ化成(ビク型打ち抜き加工、緩衝材打抜き加工、両面テープ打抜き加工)
http://satokasei.com/

【アーティスト】
長谷川維雄/http://www.fusaohasegawa.com/
冷凍生協/http://www.shinanai.com/

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